Dynaudio History

1977年に設立されたディナウディオは、独自のクロスオーバーを使いながらも初めはOEMユニットを使用していました。共同設立者の一人であり現在のオーナーであるヴィルフリート・エーレンホルツによれば、本当に優れたスピーカーを作る唯一の方法は独自の自社製のドライバー・ユニットを開発することだということが技術的な背景からわかっていたといいます。

“OEMユニットを使っていると、その開発レベルにつねに依存していなければなりません。けれども我々には供給されるユニットよりもはるかに先を行くアイデアを持っていましたし、市場のクオリティ・エンドを見詰めてゆくというのがつねに我々の姿勢でもあったのです。設立以来3年の間にディナウディオの製品は、すべて社内のR&Dチームによって開発された自社製のユニットになりました”。

この時点でディナウディオは他のスピーカー・メーカーに対してもユニットの供給を始めます。エーレンホルツは言います。“スピーカー・メーカーはたくさんありますが、ユニットが供給できるところはわずかですし、クオリティ・エンドとなるとさらに数えるほどしかありません。その意味でユニットを作るようになったということは大きな成功だったといえます”。

エーレンホルツは、スピーカーの心臓はドライバー・ユニットであるという不動の信念を持っています。“ユニットはディナウディオが成功を収めた鍵なのです。低歪率でダイナミック・レンジが広くパワー・ハンドリングに優れた高性能なユニットだったからです。我々には先進的な技術がありましたから、初めからクオリティを拡大しまたそのことを強調し続けてきました。もちろんクオリティは安くはつきませんから、ユーザーにはトップ・クラスのテクノロジーに予算を費やすかもっと安くて性能の劣るものを選ぶかという選択を迫ることになります。ディナウディオではつねに妥協というものの余地はないと考えてきましたし、ディナウディオの名がトップ・クオリティを持たない製品と同列に並べられることを許しません”。

ディナウディオの名声がドライバー・ユニットを中心としたものであったとしても、最大のビジネスはホームオーディオのスピーカー・システムです。その製品はモデルごとに特に設計開発された自社製のユニットを使用し、同じユニットをOEMなどで他の製品用に販売することはありません。現在ディナウディオでは700ドルから25,000ドル(ペア)に及ぶ価格レンジで20機種以上のスピーカー・システムを生産しています。そして現時点で年間総売り上げの55%以上が、オーセンティック・フィデリティのホームオーディオ・スピーカーで占められているのです。

1994年、ディナウディオでは一連のハイエンド・カーオーディオ・スピーカーを発表し、これもまた成功を収めて成長を続けています。いまではモービル・フィデリティのカーオーディオ製品は、年間売り上げの25%にまで達しました。また3年前からはボルボ社とC70クーペのカーオーディオ・プロジェクトを開始し、1998年の初めに発表されています。これには専用にチューニングされたディナウディオのユニットが10個搭載されます。C70は世界中で入手し得る最も進んだ標準装備のカーオーディオ・システムとして、すでに高い評価を獲得しました。

この5年間の間に、ディナウディオでは子会社を設立しています。ディナウディオ・アコースティックスがそれで、プロフェッショナル・オーディオ市場での製品開発と販売を行います。プロ用オーディオとしては比較的ニューカマーとはいえ、すでにロンドンのエア・リンドハースト、バッテリー、ザ・ピアス・ルーム、ロサンゼルスのNRGスタジオ、コローニュのココナッツ・スタジオ、ニューヨークのザ・ヒット・ファクトリーなどで採用されています。また録音プロデューサーであるマイク・ヘッジス、トレバー・ホーン、スティーブ・リプソン、マット・レンジ、アーティストではペット・ショップ・ボーイズ、コクトー・ツインズ、ピート・タウンゼンド、ロジャー・ウォーターズ、セード、マリリオンなどに愛用され、その他テレビやラジオの放送局、ポスト・プロダクションなど多くのスタジオが使用しています。このプロフェッショナル市場の売り上げは、現在約12%です。

ディナウディオはドライバー・ユニットのメーカーとして最もよく知られていますが、皮肉なことにその売り上げ比率は最も小さく(約8%)、主にOEM(世界で最高の評価を得ているメーカーも含まれます)とDIYユーザーがその対象です。これは1995年まで北米への製品販売を積極的に行ってこなかったことにもある程度起因しています。この年シカゴにアメリカでのセールス及び代理店が誕生しました。それまでは多くのOEMコンシューマーを通じてだけディナウディオの存在が知られていたのです。“我々はOEM供給者として長い将来を持っているとは信じていません。ディナウディオのブランドが強い市場では、競争相手は我々のOEMを受けることを好まないからです。実際ディナウディオでは積極的にOEMビジネスを追及してはいないのです”と述べています。

エーレンホルツはさらに言っています。“今日世界のほとんどの市場でディナウディオはハイエンド・ブランドとしてしっかり確立されています。オーバーオールなパーセンテージからいえば確かにディナウディオの占める割合は極めて小さなものですが、実際にクオリティ・エンド・メーカーとしてはどの競合相手よりも大きな規模を持っているのです”。

ディナウディオの製造部門はデンマークのスカンデルボルグにあり、ここで生産とR&Dの両方が行われています。また世界のセールスやマーケティング、輸出などはドイツのハンブルクが指揮を取っています。ドライバー・ユニットは最近拡張された工場の研究室レベルの環境下で製造されていますが、ハイクオリティ・キャビネットの製造は全てドライバー部門とは別の専用の木工場で行われます。

工場ではまた、品質コントロールに膨大な比重がかけられています。各ユニットは素材から完成品にいたるまで厳重な検査を受けます。品質コントロールを可能なかぎり高度なレベルに維持するため、ディナウディオでは最高級の素材だけを使用し、また外部からのパーツを使うことはほとんどありません。エーレンホルツは言います。“クオリティを改善する唯一の方法はディテールに集中することだと我々は信じています。クロスオーバーの後ろのレイアウトでさえ音質にとって重要なのですから、妥協を避けるために自分達にできるだけのことはするのです”。

1994年、エーレンホルツを単独のオーナーとして共同設立者が会社を去ってから、ディナウディオはあらゆる局面でいっそう積極的なスタンスを取るようになります。“最後のパートナーがやめて、私はビジネスにいっそうのフリーハンドを得て、さまざまな機会を広く探求することができるようになりました。この3年間では、モービル・フィデリティ・シリーズの導入やプロフェッショナル・オーディオの拡充に加えて、コンシューマー製品の米国での取り扱いをついに確立しています。我々の最大のマーケットは依然としてドイツで、それに香港、中国、極東が近接して続いていますが、米国は同様に重要ですし、それを我々の有力なマーケットに育てるのが目標です”。エーレンホルツはそう述べている。

エーレンホルツによると、新しいデジタル録音技術やユーザーのハイエンド指向などによって引き起こされた世界的なハイクオリティ・スピーカーの需要増は、ディナウディオの市場シェアを引き上げる完璧な土台を提供しているといいます。1997年には前年度比約40%の成長を達成し、1998年には15%の増加が見込まれています。現在ディナウディオでは200名の従業員を持ち、1998年にはさらに増員を予定していますが、同時に研究開発部門でも現在10名の人員を拡充することになっています。またR&Dへの投資は年間売り上げ高の10%を占めています。

“今日の競争の高度な市場では、仮にそれがメリットを生むものだとしても、どのメーカーものんびりと椅子にくつろいでいるわけにはいかないと思うのです。私の考えでは、R&Dに資金を使うのは将来に対する投資であり、我々の行わなければならないことなのです。世界的な競合はつねにますます激しくなるでしょうから。過去にどんな成功を収めたとしても前を向いていなければならない。でなければビジネスから外れ取り残されてしまうのです”。エーレンホルツはこう締め括っています。